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今更ながら、基礎からわかるアスベスト問題(2)


・静かな時限爆弾 今後どうなる
 アスベストは、吸い込んでから発病まで長い潜伏期間があることから「静かな時限爆弾」とも呼ばれる。日本には1969年以降、カナダや南アフリカなどから93年まで年間20万トンを超えアスベストが輸入され、ピーク時の74年には35万トンを超えていた。今は、時限爆弾が爆発し始めた状態とも言える。

厚生労働省は、95年から人口動態統計で中皮腫の死者数を集計しているが、その数は年々増加して2003年には878人に達した。早稲田大学の村山武彦教授(リスク管理)は、これまでの死者数の推移などをもとに、40年までに10万人が中皮腫で死亡すると推計する。また、世界11カ国のアスベストの消費量と中皮腫の死者数を分析した研究では、アスベスト170トンにつき一人が中皮腫で死亡していた。この結果からも、日本では今後、中皮腫の死者が年間2,000人を超えることが予想される。

過去に輸入されたアスベストは988万トン。9割が建材として使われた。今後、こうした建物が解体されるときに、アスベストが飛散するのをどう防ぐかが、最も大きな課題だ。

・対応なぜ遅れた?

 海外では1900年代初頭殻、アスベストによる健康被害をして指摘する論文が報告されるようになった。世界保健機構(WHO)が72年に発がん性を指摘すると、76年にはスウエーデンが、83年にはアイスランドがアスベストの使用を全面禁止するなど、欧米を中心に先進的な対策をとる動きが広まった。国際労働機構(ILO)は86年、毒性の強い青石綿の使用を禁止する石綿条約を採択した。

日本でも75年、労働者の保護を目的にアスベストが飛散して吸い込みやすい吹き付け作業が原則禁止されたが、「代替が困難」「管理しながら使えば安全」などとして、使用禁止に向けた動きは鈍く、アスベストの輸入も80年代後半に再びピークを迎え、93年まで毎年20万トンを超えていた。

アスベスト問題は労働者の健康にかかわる「労災」と考えられていた。それが、一般市民にも影響を及ぼす「公害」ではないかとクローズアップされてきたのは、大手機械メーカーの「クボタ」の発表が端緒だった。アスベストの付着した作業着を洗濯していた工場の労働者の妻や、アスベストが吹き付けられた店舗で長年勤務していた男性が中皮腫を発病して死亡していたことも、次々に明らかになった。
健康被害が労働者だけでなく、家族や周辺の住民に広がっていることは、海外では、1960年代から報告があった。旧労働省や旧環境庁などもこうした事実を把握していた。今後、具体的な検証が行われるが、日本国内の対応が後手に回ったことは否めない。

茶石綿、青石綿の使用が原則禁止されたのは95年。白石綿は昨年、ようやく使用が原則禁止になった。政府は今回の問題を契機に、代替化が困難として使用が認められた一部の製品も含め、2008年までに全面禁止方針を打ち出し、さらなる前倒しを業界に働きかけている。一方で、「クボタ」の発表以降に明るみに出た健康被害は、日本の対策の遅れが原因だと、単純には論じにくい面もある。アスベストの危険性が明確になる以前で、対策の取りようがなかった時代にアスベストを吸い込み、発病した人も多いとみられるからだ。
政府は、健康被害を訴えている労働者の家族や周辺の住民の救済措置について特別立法も含めて検討を行い、9月中に結論をまとめる。

2005.8.6「読売新聞」より



by mikannohanasakuok | 2006-09-01 19:22 | 健康